文鳥飼育の一例

□ ペレットか伝統食か

文鳥を飼育するさいには、餌は次のどちらかを選ぶことになる。

(1)穀物、青菜、ボレイ粉など
(2)ペレット

ペレットとは様々な栄養素をバランスよく配合した乾燥餌で、これを与えるだけで飼育できる。文鳥に対してあれこれの餌を用意する必要がなく、また文鳥の偏食による栄養の偏りを防ぐことができる、とされている。私はペレットは使ったことがないので、じっさいのところは良く分からない。個人的な好みから、(1)の伝統的な(?)餌を用いている。

私は、文鳥が餌を食べるのを見るのが好きだ。毎朝、文鳥は私に給餌をせかす。ブランコをガンガンと揺さぶって、カゴに飛び移り、クリップをガチャガチャと齧る。私が新しい餌を入れてやると、文鳥は餌入れを固定する前からそれに飛び移ってアタマを突っ込む。まず、いちばん大きな粒である青米をバクバクと齧るが、それは食べるためではなく、殻をむくことを楽しむためだ。じっさい、ララビスにとっての食欲とは満腹することへの欲求である以上に、噛み付いて引きちぎり、ガツガツと噛み砕くことへの欲望であるようだ。そうやって穀物飼料を食べているあいだに、野菜類を入れてやると、ゴクゴクと水を飲んだ後で野菜にとびかかり、野菜と格闘をはじめる。暖簾に腕押しをものともせず、激しく葉を突付き、茎に襲いかかる。やがて冷静さを取り戻し、葉を止まり木に足で固定しながらついばんだりもするが、けっきょくは食べているのか散らかしているのか分からないような食べ方である。そして食餌が一段落したころ、文鳥は私が手にした粟穂に気づくのである。静かな、しかし抑えがたい昂奮が文鳥の表情を支配し、私がカゴに手を入れ粟穂を固定するあいだ、文鳥の視線はゆらゆら揺れるその茶色の穂先に釘付けになるのだ。

だから、文鳥が至福に包まれながら餌を食べているのを見ていると、いつまでも飽きず、このままずっとこうやって時間が流れていくならば、(私と文鳥の)人生はなんと美しいのだろうと思わず思ってしまうくらいなので、餌を(文鳥が好まないけれど健康には良いとされる)ペレットに変えるなど(私と文鳥には)苦痛いがいの何者でもない。

というわけで、無理やりペレットの難をあげつらっておく。ペレットは鳥が必要とする栄養を完全にバランスよく網羅してあるとなっているが、少なくとも文鳥に関しては、どのような栄養バランスが完全なのか説得力ある根拠を示していないようだ。また、文鳥が必要とする栄養が、環境や文鳥自身の状態によらず、一定であり、したがって生涯にわたってただ一種類の完全な食品を食べていれば良いというのは、正しいようには思われない。

もちろん、文鳥自身が何を食べたらよいのか、正しい判断ができるわけではない。しかし、ある程度は、自分の身体が必要としているものを知っていて、それが食欲に反映されるのではないだろうか。当面の方針としては、伝統的に文鳥の餌として与えられてきた食物を多種類、多少の変化を与えながら提供し、その中から文鳥の欲求が選択するものを食べさせて行くつもりだ。文鳥の食欲と人間の知識で半分ずつ餌の決定権を分け持とうということである。

一方、ペレットを使う利点は、あれこれの餌を用意する必要がないと言うことだろう。私にとっては、餌の準備は文鳥の飼育の楽しみの多くを占めるので、もっとめんどうで煩雑ならよかったのにと思うくらいだが、そうでない人もいるはずだ。とくに料理をしない人にとっては青菜を用意するのは無駄が多いだろうし、生活のリズムによっては手に入れづらい場合もあるかもしれない。私は、そのような状況になったら、ペレットをつかうつもりでいる。それから、獣医によってはペレットを強く勧める場合があるようだから、その獣医と仲良くしたいなら、やはりペレットでしょうね。

□ 農薬について

農薬に関しては、私自身はたいして気にしていない。なるべく少ないほうが良いが、必ずしも無農薬にこだわる必要はない、と考えている。残留農薬については、たとえば、次の報告がある。

雑穀中の残留農薬について(pdfファイル) 岩手県環境保健研究センター年報 第2号 平成14年度(2002)

その上で、多少の気がかりを一応書いておく。
まず、文鳥はその体重にたいして、人間よりもたくさんの餌を食べる。小鳥は体積にくらべて表面積が大きいので逃げる熱が多く、さらに体温も人間より高いから熱が逃げやすい(フーリエの法則)。したがって、その分たくさん食べなければならない。

参考 哺乳類の限界寿命と生命サイクルテンポ

上記ページにあるスズメ目の代謝率をもとに、体重一キログラムあたりの文鳥の消費熱量を求めてみると、人間の十倍以上になる。文鳥はこの大半を穀物から採ると考えられるから、穀物中の残留農薬は人間と比べてより大きく影響する。下記の農薬工業会のページによると、こうある。
「これらのマウスやラットを使った試験はかなり苛酷なもので、毒性の低い場合には、体重1kg当たり1gの割合でその物質を毎日約2年間食べさせます。体重 50kgのヒトに換算すると毎日50gの対象物質を食べてその結果を見るのと同じです。」
つまり、農薬の生体への影響は、体重一キログラムあたりに対する農薬量で決まる。ということは、文鳥の食餌においては、人間の十倍以上の濃度で農薬を摂取しているのに等しい。

なお、雑穀は栽培に使用される農薬が比較的少ないので、ポストハーベスト農薬が主な関心となる。人間用の穀物は、脱穀して籾殻は食べないことを前提に殺虫剤などを降りかけているが、鳥の場合は殻ごと口に入れるので、より大きな影響がある可能性がある。じっさい、上記の「雑穀中の残留農薬について」の検査は一般に市販されていた雑穀を対象として検査しているが、この時点で籾殻は除去されているだろう。

さらに、農薬の安全性は主にラットを中心とした実験で安全性を確認されている。しかし、鳥類の場合には体内の構造が大きく異なるので、哺乳類にとって安全でも、文鳥にとっては危険かもしれない。たとえば、水溶性の物質が尿とともに排出されることが確認されたとしても、文鳥には(哺乳類と同じ意味での)尿などない。さらに、動物実験で発癌性が見られたとしても、人間に害がないと判断されれば、農薬として登録されるのであり、動物は死んでもいいという基準で農薬は使用されている。
「たとえ実験動物でがんが誘発されたとしても、ヒトに対しては発がんのリスクがなく、安全に使用できると判断される場合には、農薬として登録されます。 」

参考 農薬の安全性(農薬工業会)

という程度で、大した懸念はないのだが、気になる人は無農薬の餌を選べばいいだろう。ネット上で買えるのは、CAP! など。
個人的な感想としては、国内産の穀物ならば無農薬でなくても、ポストハーベストは使用していないので、問題の大半が解決するはずだ。近所の小鳥屋で扱ってたから、いまの餌が終わったら買いに行ってみようと思う。あと一年後くらいだろうが。

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